黒き尊き魔女の結婚

黒き尊き魔女の結婚

黒き尊き魔女の結婚12

鏡の中のフィリス   とうとう舞踏会まで二日となった。明日には王都をはじめ国中から、招待客がやって来る。 フィリスは夜半、寝室で、アルカルドの寝顔を見つめている。 『君との結婚を、幸運だったと思い始めている……』  そう言ってくれた夫は、相...
黒き尊き魔女の結婚

黒き尊き魔女の結婚 11

嫉妬  木漏れ日が手の甲に繊細な模様を編み出している。フィリスは籠を地面に置いて、両手を光にかざした。  エントワーズの屋敷からほど近い森に来ている。故郷の森に比べれば小さいが、屋敷の中にいるより、ずっとくつろぐことができる。  ベリー類や...
黒き尊き魔女の結婚

黒き尊き魔女の結婚10

予期せぬ来客  本当になんて美しい女性なのだろう。  彼女の金髪は、蚕の繭から取り出したばかりの糸に似ている。一本一本が細く、柔らかそうな艶を放つ。瞳は近くで見ると、ごく淡い水色。アルカルドの瞳が深い湖を思わせるなら、彼女の瞳は春の空を連想...
黒き尊き魔女の結婚

黒き尊き魔女の結婚9

魔物の正体  フィリスが取り逃がしたのは、魔の欠片だ。アルカルドの腕は時間をかけて浄化していたため、欠片だけならば、そう大きな惨劇は起きないはずだ。  それでも、念には念を入れておく必要がある。  なぜなら魔というものは、はじめは、霞のよう...
黒き尊き魔女の結婚

黒き尊き魔女の結婚8

アルカルドの戸惑い  フィリスが嫁いできて二十日目にして、アルカルドは彼の妻を抱こうとした。  アルカルドは二年という限られた期間内に世継ぎをもうける必要がある。本来、一日の猶予もないはずが、嫁いできたフィリスという娘があまりにも風変わりだ...
黒き尊き魔女の結婚

黒き尊き魔女の結婚7

フィリスの失態  アルカルドは、身体が軽くなっているのを実感していた。  朝、目が覚めた時、頭がすっきりとして、深く眠れたことが分かった。起き上がると、例の忌々しい腕の痛みは、だいぶ良くなっている。驚いて痣を確認すると、薄くなったように見え...
黒き尊き魔女の結婚

黒き尊き魔女の結婚6

魔法のスフレと真夜中の治癒  フィリスはさっそく晩餐の後、少ししてから、厨房へ行った。コルテスから使用許可を得た時間帯になったからだ。  厨房は晩餐の片付けが終わり、コルテスを始めとした厨房の使用人たちは休憩に入っていて、翌日の仕込みを命じ...
黒き尊き魔女の結婚

黒き尊き魔女の結婚5

初めてのダンス  アルカルドが言ったように、その日、仕立て屋がやってきて、新しいドレスのために細かく採寸された。午前中は採寸と、ドルモアによる侯爵夫人の心構えについての勉強に追われた。 「奥様はひょっとしてお裁縫もおできになりますか」 ふと...
黒き尊き魔女の結婚

黒き尊き魔女の結婚4

公爵の秘密  ほとんど他人と接したことはなかったから、人に悪口を言われることも、フィリスにとって新鮮なことではあった。もちろんあまりよい気分ではない。それよりも、彼女たちの話で気になったのは。 『お怪我さえなさらなければ……』  アルカルド...
黒き尊き魔女の結婚

黒き尊き魔女の結婚3

触れられないもの  川を越えて吹き付けてきた風が顔にあたる。草原を駆け抜ける二頭の馬の足取りはどちらも力強い。  フィリスは手綱を自在に操りながら草原を駆けた。アルカルドを乗せた黒馬も並走している。時々、目が合う度にフィリスはにこりと笑いか...