自分でもなかなかの自信作だと思える小説が書き上がった。よく言われるのは、「誰かに読んでもらってから応募した方がいい」。でもそれってものすごく勇気がいることですよね。皆さんはどうしていますか。
文章力があり小説好きの知人に読んでもらう
わたしは新卒で入社した会社が肌に合わず、一か月で辞めました。その後、念願叶って、情報誌を出している小さな出版社にアルバイトとして雇ってもらえたんです。そこで出会ったのがH氏。少し歳上の男性社員で、投稿生活をしていて、地方の文学賞を受賞した経歴の持ち主でした。
わたしはといえば、学生時代に童話を書き始め、企業が主催する童話コンテストで受賞した経験がありました。そして、鼻持ちならないことに、そのことを自慢に思っていました。なので、H氏と出会ったとき、勝手に仲間意識を発動させ、仕事の合間に投稿の話をするようになったんです。
ある日、H氏に言われました。
「一度読ませてほしい。どんなものを書いているのか」
「いいですよ。ぜひお願いします」
少し勇気がいりましたが、読んでもらいました。当時はまだ長編どころか、小説といったものでもなく、原稿用紙にして10枚くらいの童話を書いていたのです。
後日、H氏は真面目な顔でこう言いました。
「読んだよ。思っていたより……」
「思っていたより?」
「下手くそだった。もっと書ける人かと思ったら、物語の基本もなしていないものだった」
赤面ものですね。現実を知らない小娘だったんです。H氏は、表情ひとつ変えることなく、こう続けました。
「よかったら添削するけど」
「……お願いします」
今でも思います。あれが運命の分かれ道だったんじゃないかあと。大げさではなく、彼に出会わなければ、わたしは小説家にはなれなかった。
H氏は、かなり細かく原稿を添削してくれました。後日戻された原稿には、赤でダメ出しがびっしりと。そして会社の休み時間に、わたしの拙い原稿を間に置いて、どこかどう良くないのか、指導してくれたんです。シーンの組み立て方がなっていない。登場人物がよく分からない。情景描写が下手くそ。そんな感じで。
悪いところを言うばかりではなく、「ここがいいから、もっとふくらませる感じで」「全体のストーリーとしては面白いと思う」と、ちゃんと褒めてもくれました。書き直すと、「ものすごく良くなった」とも。
彼は終始、淡々と話す人でした。良いことも悪いことも。
わたしはプライドを捨て去り、指導はすべて素直に受け止めました。それはH氏の実力を知っていたからであり、尊敬していたからです。最初に思いっきり恥をかいたのも良かった。なにより、指摘される内容は、いちいちもっともだ、と納得のいくものばかりでした。
書き上げた小説を友人に読んでもらい意見を求めてもいいと思うんです。相手は、ごく一般の読者の目線で読んでくれるでしょう。でも、このH氏のようにはっきりと具体的に言ってくれる人がいるといいですね。文章の指導とまではいかなくても、「あそこがちょっと物足りなかった」「登場人物Aはなんであんなことしたの? 共感できなかった」「冒頭部分が退屈すぎるから、工夫したほうがいいと思う」くらいは言ってくれる人。友人に頼む場合は、「厳しめに」と頼んでおきましょう。
小説投稿サイトに投稿し、読者の反応を見る
現在は本当に小説を発表する場に恵まれています。最近知り合った同年代の女性が、「昔から小説家に憧れていたけれど、まともに一作品も書き上げたことがない。今からでも小説を書いてみたいが、できる気がしない」と言っていました。わたしは、まず、投稿サイトに作品を公開してみたらどうか、と提案したんです。
いきなり新人賞に応募するのは、確かにハードルが高く感じます。枚数制限もあるし、締切もある。
投稿サイトは、誰でも作品を発表することができ、原稿を書くフォーマットが書きやすく考えられています。
有名なところでは、「小説家になろう」「カクヨム」あたりでしょうか。
こちらには、プロ顔負けのレベルの高い小説がたくさん掲載されています。ついつい、読み専になってしまうくらいです。どうしてこれが文庫化しないのだろうか、と思わされる作品がいくつもあります。
もちろんそこまで完成度の高い作品でなくても、書き始めたばかりの人も自由に発表できます。そこで徐々にでもPVを稼げば自信になるし、感想ももらえるし、意見交換のための企画も行われている。
そしてなにより、投稿サイトの優れている点は、デビューのチャンスが増える、ということです。
たとえばカクヨムでは年に一度カクヨムWeb小説コンテストが開催されていますね。応募作品を読者の人気投票と編集部による合同審査の二段階で選考し、受賞作を決定する。ジャンルは幅広く、各ジャンルの受賞作は高額賞金に加え書籍化が確約される。もともとカクヨムに掲載していた自分の作品に、タグ付けしてエントリーできるのがいいですね。そのほかにもテーマを設けたコンテストや、レーベル主催の新人賞もあり、サイト経由で非常に応募しやすくなっています。小説家を目指す人で利用している人は多いでしょう。
ただし一点、気をつけなければならないのが、「未発表作品」の規定です。投稿サイトや自身のブログで公開した作品は商業目的ではないとして「未発表作品」として受け付ける、という賞もあれば、「すでに発表されている」として規定違反とみなす賞もあります。ライトノベル系の新人賞であれば大体、前者の取り扱いのようですが、もし自分がチャレンジしたい賞がある場合は、事前にちゃんと応募規定を確認してから、ネット上で発表するようにしましょう。
応募規定さえクリアにできる場合は、投稿サイトへの掲載はとてもいいことだと思います。力試しができますし、最終的に自分のページは自分の財産になります。
時間を置いて、少し未来の自分に読ませる
それでも、作品を人に読んでもらうことに二の足を踏む人は多いでしょう。友人知人だったら、お互いに気まずい思いをする可能性があります。小説を読んでもらうのは人の時間を奪うことにもなるし、つまらないと感じさせてしまう場合は、苦行を強いることになります。
投稿サイトでPVが伸びないと自信を喪失したり、せっかくもらった感想が厳しめの場合、心が折れそうになることもあると思います。
図太くなればいいのかもしれませんが、小説を書く人は本来、「気にしい」でガラスのハートの持ち主が多いですからね。
わたしはといえば、物語を書き始めた初期の頃は、前述のH氏に添削してもらったのですが、本格的に投稿を始めたのが退職後ということもあり、長編の投稿作は誰にも読んでもらっていません。
2次選考で落ちた長編は、書き上げてからすぐに応募してしまいました。
最終選考まで残った作品は、意識的に寝かせました。確か、書き上がってから半月くらい。
半月後に読み直してみると、さまざまなことに気付いたものです。誤字脱字、作品のアラ、脇役の性格に一貫性がない、セリフが陳腐、等々。
それで再度手直しをして、さらに3日くらい置いて、また読んで、直して、ようやく応募したと記憶しています。
誰にも読んでもらえない(読んでほしくない)し、応募規定やメンタルの関係で投稿サイトの利用が難しい場合は、しばらく原稿を寝かせましょう。半月が無理でも、一週間置くだけで、客観的に自分の小説を読むことができます。
つまり、未来の自分に協力させるのです。これは簡単なようでいて、なかなか難しい面もあります。小説は自分の分身のようなものなのに、それを、別人になりきって読む、ということです。でも慣れれば、凪いだ海のように平らな心で、かつ鷹のように鋭い目で、己の作品を読むことができます。
自分に甘くするのも、一番厳しくできるのも、結局は自分自身なのです。
だから個人的には、誰かに読んでもらうもらわない関係なく、この三番目の工程は外せないな、と考えています。
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